フリーアドレス制などオープンな環境のオフィスでは、集中して仕事がしやすい、あるいは周囲の音を気にせずにWeb会議ができるスペースとして、個室ブースが活用されています。しかし、個室ブースを導入する際に、注意しなければならないのが消防法です。個室ブースに関する消防法や、設置の際に必要となる申請については、以前のコラムでもご紹介しました。そこで今回は、個室ブースが消防法の対象になった経緯や、消防法に違反した場合の罰則についてお伝えします。
消防法の歴史
日本の消防法は、火災の予防や火災が発生した時に被害を最小にすることを目的に、1948年に制定されました。この法律によって、多くの建物には万一の火災に備え、消防設備の設置や点検が義務付けられています。制定以降、度々見直しが行われてきましたが、特に2001年に新宿の歌舞伎町ビルで発生した火災の被害が甚大だったことから、さらなる見直しが行われました。例えば、避難上支障のある物品が放置されないように管理することや、階段が1つしかない雑居ビルは自動火災報知設備を設置する、といったことが追加されました。
個室ブースが消防法の対象になった経緯
個室ブースは建物ではないため、当初は消防法の対象ではありませんでした。2007年と2008年に相次いで発生した、カラオケボックスと個室ビデオ店の火災で多くの犠牲者が出たことから、2010年の改正時に個室ブースも消防法の対象になりました。面積を問わず、個室の対象になるものには、消防設備の設置が義務付けられ、カラオケボックスや個室ビデオ店の他、マンガ喫茶や複合カフェなども消防法の対象として追加されました。
消防法の個室ブースの定義
すべての個室ブースが消防法の対象となるわけではありません。対象となるのは「居室」とみなされる場合です。フルクローズ型の個室ブースは、天井や壁が完全に覆われているため居室とみなされ、消防法の対象になります。個室ブースは防火対象物に固定されていないため、消防法では「可動式ブース」と表現されています。
個室ブースに設置が義務付けられている設備
フルクローズ型の個室ブースには、下記の設備の設置が義務付けられています。
消火設備または自動火災報知設備
個室ブースには、屋内消火栓やスプリンクラーなどの消火・延焼防止設備、または、火災が発生した際に熱や煙を感知し、警報を鳴らして知らせる自動火災報知設備を設置する必要があります。
スピーカー
個室ブースは、周囲の音を遮断し外部の音が聞こえにくくなっているため、オフィス内で火災が発生し警報が鳴っていても、ブース内にいると気づかないリスクがあります。音圧や設置場所などの一定の条件をクリアしている場合を除き、スピーカーを設置する必要があります。
消防法に違反した場合
消防法により、建物の管理者には、防火対象物の管理や火災の予防が義務付けられています。主な内容は、防火管理者の選任、消防計画の作成、避難訓練の実施、消防設備の点検、火災予防に重大な支障を生ずるおそれのある物質の届け出、などです。こうした内容に違反すると、管理者に罰則が科せられます。義務を怠ったり、虚偽の報告をした場合、罰金または勾留の対象となります。もし、消防法に違反したことが原因で発生した火災で死傷者が出た場合、1億円以下の罰金が科せられることになっています
個室ブースをオフィスに導入する際には、消防法に違反して罰則の対象になることのないように注意しましょう。一定の条件を満たしている場合には、消防設備の設置が免除される特例があります。対象になるかどうか免除要件も確認しましょう。